09.17
電話恐怖症を越えて─「よくなるとは忘れることである」
そこで、例えばこんな「教科書通りに、恐怖症を克服しました」という話をしてみたい。
20代の頃から、社交不安症(障害)─かつては対人恐怖症という言い方をしていた─の一環として、電話恐怖症に苦しんできた。
電話に出られないし、かけられない。電話以外の連絡法がある所なら、その方法を使えばよいが、是非とも電話連絡をしなければならない所とは、コンタクトができなかった。
そのため、電話予約が必要な治療機関の予約もできず、必要な治療を受けるのが、数年遅れてしまったこともある。
あるセラピストの援助を受け、どうにか社会復帰を果たし、他者との交流にさほど不安を感じなくなってきてからも、この電話恐怖は、根強く残っていた。
勤務先で、近くの席の方々が休むため、一人で電話番をするハメになりそうな日には、私も休暇を取って、休んでしまったこともあった。
ネット社会になり、通信販売の注文や問い合わせなどの多くは、ネットやメールで済むようになった。
それでもやはり、緻密な問い合わせや予約は、まだまだ電話を使用しなければならない。
母の病気治療や介護が始まってからは、電話をかけねばならない機会が、激増した。
福祉センターやケアマネに連絡しなければ、介護サービスを受けられない。タクシーを呼ばなければ、母を病院に連れていけないし、帰ってこられない。
だから仕方なしに、どんなに不安恐怖が強く、身体まで苦しくなっても、とにかく電話をかけた。どんなにしどろもどろでも、言い間違えて恥ずかしくても、それはそのままにして、とにかく用件を伝えた。
森田療法の言葉である「恐怖突入」を、お題目のように、心の中で繰り返しながら。
そんなことを何回か繰り返していくうちに、さすがに慣れてきた。徐々に、不安恐怖や身体症状の出現が、少なくなってきたのだ。
そして、ふと気がつくと、必要なときには、ごく自然に電話をかけている私がいた。初めての相手に対しても、何のためらいもなく、電話をかけられているのである。
今となっては、「あれ?そういえば私って、電話恐怖症だったんだよなぁ。何で、こんなことがあんなに怖かったんだろう?」という感じである。
「よくなるとは忘れることである」という森田療法の考え方は、真実だと感じる。森田療法の治癒像としてしばしば語られる「根本的によくなったとも感じないが、とにかく、いつの間にか以前できなかったことが、自由にできているという自己の発見…」*というのは、その通りであると思う。
少なくとも電話恐怖症に関しては、森田療法の教科書通りの治り方をしたという感じである。
現在の私が抱えている問題は、森田療法の適用が難しいものである。それらを乗り越える道が見つからず、どうしたものかと悩んでいる。
とはいえ、電話恐怖を乗り越えられないままであったら、介護サービスを受けることも、母を病院へ連れてゆくこともできず、悲惨な結果を招いていただろう**。
そうならずに済んだというだけでも、森田療法の効能は大きかった。このことは、声を大にして言っておきたいと思う。
* 池田数好「森田神経質とその療法」『精神医学』1巻7号, 医学書院, 1959, p. 461
** 20代の頃、「自分が力になるから、何でも言ってくれ」を連呼する自称親友に、思い切って、治療機関への電話予約の代行を頼んだら、「どうして自分でしないのか(そんな下らないことはしてあげない)」と、拒否された。その人物は、私が自分で電話をかけられないから、仕方なく頼んでいるのだということを、わかろうともしなかった。
「所詮、他人とはそんなものなのだ」と学習してしまったので、それ以降、誰かに代行を頼むなどという選択肢は、消滅しているのだ。
- 関連記事
-
- 8050問題の隣で─病病介護の危うさ (2018/01/03)
- 私は、不妊に悩んでなどいません─ミスマッチのターゲティング広告に物申す (2017/12/12)
- 「受け入れる」と「あきらめる」は違うのに… (2017/10/14)
- 【再掲】脊柱管狭窄症の手術タイミング─手遅れになる前に (2017/10/08)
- 障害認定を受けられる方がうらやましい?─炎上必至? アブナイ本音 (2017/10/02)
- 電話恐怖症を越えて─「よくなるとは忘れることである」 (2017/09/17)
- パラリンピックに向けて、某所で「パラスポーツを応援したくなる映像」募集中! (2017/09/11)
- 奥様など、我が家に存在しません─家族に関する固定観念 (2017/03/11)
- 免罪符としての検索募金 (2017/03/11)
- 脊柱管狭窄症は、麻痺が出たら即手術せよ!─手遅れにならないために─ (2017/02/25)
- なぜ、アンデルセン?──長野灯明まつりのコンセプトへの疑問 (2017/02/13)
テーマ :
対人恐怖症・社会不安障害
ジャンル :
心と身体
Tag : 森田療法