11.29
なかなか的を射た、心理学系の『鬼滅の刃』論がありました
心理学者や臨床心理士、精神医学者などが書いたアニメ論には、的外れというか牽強付会、我田引水的なものが、少なくない(そうしたものの批判が目的ではないので、特に名前や書名は出さない)。
そんな中、期待しないで読んだらかなりよかったというか、「本当にその通りだ」と思えた文章があったので、紹介したい。
蝦名 玲子「『鬼滅の刃』に学ぶ、危機下のストレス対処法…炭治郎はなぜ逆境で成長できたのか」
https://news.biglobe.ne.jp/economy/1121/aab_201121_6335104594.html
(リンク切れにつき、以下を再掲載)
https://allabout.co.jp/gm/gc/486078/
この文章では、最初に、「炭治郎はなぜ心の病気を発症させることなく成長できたのか」という問いを立てている。
そしてその答えとして、「危機下において心を守るために重要な、3つのストレス対処法を実践していたから」と、次の3つのストレス対処法を挙げ、それをストーリーに即して具体的に解説しているのだ。
*******************
対処法1:どれだけ考えても分からないことについては考えない
対処法2:目の前のできることを淡々と行う
対処法3:意味の感じられることをする
*******************
この3つの対処法は、言われてみれば、確かにその通りである。森田療法(特に原法)と、そこから派生した森田式精神健康法を、彷彿とさせるところもある。
これらのことは、普通に生活している人のストレスマネジメントやメンタルヘルスケアと、心の病になってしまった人の治療の双方において、重要なことである。
そのことを私は、精神療法理論の知識としてだけでなく、自分自身の体験によっても知っている。
この文章においては、作品の具体的内容に即した解説もキチンとしており、こうしたものにありがちな、牽強付会な面が見られない。真に、作品に即した論が展開されている点に、好感が持てる。
なまじ、バトルものの作品に慣れ親しんでしまっていると、オーソドックス(テンプレ的)な展開には、さしたる疑問も持たず、「そうしたもの」として、受け入れてしまいがちだ。
そのジャンルのお約束といったものをよく知らない受け手であれば、「なぜ、○○は~~なのだろう?」と、素朴な疑問を抱くような事柄であっても、メタな視点から「作劇上の都合」として、あえて問わずに流してしまうことも多い。
アニメやマンガに数多く登場する、幾多の困難を乗り越えて成長してゆく主人公に対して、「なぜ、この主人公は心を病まず……?」と問うことは、ほとんどのバトルものの愛好者には、無縁なことであろう。
(ミもフタもないことを言ってしまえば、問うてもムダ─答えとして読み解けるようなものはなく、ただ単に「そういう性格だから」と言うしかない─な作品が多いのも、確かであるのだが。)
そうした、普通のファンならば疑問にも思わないだろうことを、あえて問うことによって、なかなか興味深い論が展開されているわけだ。
自分の行動に意味を感じられるか否か。あるいは、自分の現在の行動が己の一番の大きな目的につながっていると思えるか否か。こういったことが、メンタルヘルスによい影響を及ぼすということを、私はついこの間、再認識した。
「我にしかできない仕事もつことは……」
https://flowerhill873.blog.fc2.com/blog-entry-457.html
私個人にとっては、校閲の仕事が自分の生涯の夢ともつながっているという感覚。『鬼滅の刃』の主人公にとっては、鬼を倒すということが「妹を元に戻す」という、一番の目的につながっているという確信(上の文章の中では言及されていないが、その後の展開において、そうした話が出てくる)。それがあるからこそ、どんなに辛くてもがんばれるのだ……。
そう考えたら、特に珍しくはない、バトルもののひとつとして楽しんでいただけのこの作品が、少し身近なものに思えてきた。
それゆえに、この文章のことを紹介してみたいと思ったのである。
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